西原さんの体験談

略歴紹介

西原 理恵子(さいばら りえこ)
1964年、高知県生まれ。漫画家。

破天荒な人生を叙情的に描くストーリーマンガの旗手として知られる。
「ぼくんち」「上京ものがたり」「毎日かあさん」など受賞作多数。
2005年6月、うつ病と診断される。2年間の闘病生活の後、現在は回復し、精力的に執筆活動を続けている。

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作品に昇華できない悩み…。こんなことでうつ病になってしまうなんて理解できなかったですね。

■まずはじめに、西原さんがうつ病にかかったのはいつ頃でしょうか?

4年前くらい、40歳の時だったと思います。

■どのようなきっかけで、病気に気づきましたか?

涙が止まらないとか、夜中に目が覚めるとか、喉もものすごく乾いて、心臓の動悸が激しくて、トラック1周走ったような状況になってるんです。
もともと、一つ考えたら思いつめるタイプなんですけど、その一つの思考から出て行かないんですよ。作家としての自分を知っているので、これは明らかに冷静じゃないし、普通じゃない。
変だなあ、これは病気だなあ、って思って病院に行きました。

■原因にお心当たりはありましたか?

ささいな人間関係のトラブルですね。「憎い、憎い。なんであの人はこんなことしたの?憎い、憎い…」そこから一歩も外に出られなくなっていました。
私は今までいろんなトラブルに巻き込まれてきましたけど、それを跳ね返せる人間だと思っていたので、こんなことでつまずくなんてことが、理解できなかったです。
ストレスってコップ一杯までだから、最後の一滴がそれだったと思うんですよ。
私、仕事はオーバーワークだし、好きな仕事だから休むとか辞めるという選択肢を自分で入れてなかったんですよ。この仕事が自分にこなせないわけがない。今までやってきたんだから、そして誰よりもうまくやってきたんだから、絶対に大丈夫なんだよって。だから、おかしいじゃないですか。
以前にも軽いうつ状態はあって、それは作品に昇華することで治せたんですけど、今回のは作家として漫画のネタにもならないことなので。

■うつ病と診断された時のお気持ちは?

ちょっとほっとした、という感じでしたね。「ああ、風邪ですね」みたいな。
先生がすごくソフトに対応してくださったので。

どうにか仕事を続け、ネタが満載の生活でも、あの悩みに引っかかったまま。「落としどころ」をつけていくことができるようになって、少しずつ回復しました。

■実際にどのような治療を行いましたか?

最初の半年くらいは、薬に頼って寝るっていうことしかできない。時間をかけて、ちょっとずつ良くなって。治るまで2年くらいかかりましたね。

■その間もお仕事を続けられてきたと思いますが…。

「エイヤ」って頑張って仕事するんです。その仕事に集中する時間が引っくり返って「憎い、憎い」になって、一つも前に行けなくなる。やっぱりプライドが高かったんでしょうね。
薬を飲んで、人間寝れば治るっていうのは、なるほどなと思った。だけどそうすると、仕事ができない。とにかく眠くて、もうろうとする。集中しなくてはいけない仕事なので、ものすごくつらかったですね。自動操縦に切り替えるわけにもいかないし、描くのはともかく、考えるのがね。
仕事関係の人と会う時は、私は芸人さんと同じなので、パッとスイッチ入って「笑い話言わなきゃ」って。悪いほうには思考がいかないですね。逆に子どもといる時は甘えちゃって、一人で黙って深いところに行っちゃう。私が固まって動かないと、子どもが「また何か考えてる」って言って。

あと、この悩みを言う相手がいないですよね。こんなつまらない話題を、ぐちぐちとね。それはすごく困りました。打ち明けられないっていうか、打ち明けられるほどのネタじゃないっていうか。あまりにもコトが小さすぎて(笑)。
その後、夫が末期ガンでいよいよ亡くなったりするんですけど、いろんなネタが満載なのに、私はそこに引っかかったままなんです。

■どのように回復されていきましたか?

できるだけあの感情がこっちにやってこないように、その深い穴に落ちないように、穴をのぞき込まない、穴のそばに寄らない、そこに行きそうになったら違うことを考える、仕事はできるだけ詰めない。
自分でいろんな精神的な振り方を考えました。
旅行にできるだけ行くように、取材は頻繁に入れるようにも心がけましたね。
人間は必ず病気になるし、どこかで落としどころをつけるしかないんですよ。うつ病で、主婦だけど家事ができないなんて方がいる。もう自分の支柱が折れるようなことなんですけど、家族に納得してもらって、家汚いのはもういいって、そうやって落としどころをつける、っていう。どうやって病気とつきあって、折り合っていくか、ということですよね。

定期的に目の前にご褒美を置いておけば、頑張れる。うつ病は病気だから、医師にきちんと診てもらい、家族で助け合って。

■現在の状況はいかがですか?

私はやっぱり働くのが元気の源なので、バランスをどう取っていくかですね。定期的に目の前にご褒美を置いておく。2ヶ月頑張れば、どこかへ取材旅行に行けるように。迷惑だろうけど、子どもは学校休ませて一緒に行く。子供と離れちゃうと意味がない。一人になると余計落ち込むから。
あと、仕事は入れすぎないように。でもこの仕事は、暇か忙しいかどっちかですからね(笑)。

■最後にうつ病に悩んでいる方へ、メッセージをお願いします。

本当に一生つきあっていかなければいけない病気なので、男の人なら会社に行けない、主婦なら掃除ができない、それでも仕方がないんですよ。家族から理解してもらうためにも、専門の医師にきちんと診てもらうことですよね。うつ病は病気なので素人が治せない。そういう意識を持ってほしいですね。
それから、家族がまず先に病気のことを学習する姿勢があればありがたいですね。
本人は40度の高熱で引っくり返っているようなもの。そこへ勉強して来いって言われても無理。どうして倒れているのかは、家族が聞いておかなければならない。家族が病気を認めるってとこから、はじまりますから。
でも、家族は専門家じゃないから、愛情を注ぐのと後方支援だけ。そんな時のための家族なんですよね。人生に不測の事態は山ほどあるので。

■西原さん、貴重なお話をありがとうございました。

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